2004年09月05日

故郷の店

夏休みに帰省したときのこと。
普段は駅からバスで実家まで行くのだが、今回は早く着いたのでぶらぶらと歩いて帰ることにした。
多分一時間以上かかるが、途中で休憩しながらならそれも楽しいだろうと。

今の実家はぼくが上京してから引っ越してるので、幼い頃に育った街ではない。
駅から歩いて帰ると、昔住んでた地域を通れる。
それが目的だった。

30分ほど歩いたところで、子供の頃によく遊んだあたりに近づいてきた。
大人になってから来ると、道も建物もやけに小さく感じる。

商店街を通るとき、ある喫茶店が目に付いた。
子供の頃は、よくここで親が買い物を終えるのを待っていた。
オレンジジュース飲みながら。
おばちゃんが一人でやってる店で、お客さんは決して多くなかった。
一人でおとなしく親を待ってると、おばちゃんがいろいろお話を聞かせてくれたのを覚えている。

小学生くらいになって親の買い物について行かなくなってからは、このお店に入ったことはなかった。
20年ぶりくらいか。
ここで休憩してみることにした。

やっぱり地方のちっぽけな古い喫茶店。
決してこぎれいな感じではなく、むしろ薄暗く人気もなかった。
窓はあるが、灯りが入る程度で外は見えないガラスだった。

中には変わらずおばちゃんがひとり。
記憶にある顔より多少老けているが、子供の頃に相手してくれたあのおばちゃんだった。
相変わらず優しそうな感じで、コーヒーを出しながら軽くおしゃべりしてくれた。
さすがに覚えてないだろうから、子供の頃のことは話さなかった。

精算に二千円札を渡すと、おばちゃんは不思議そうにお札を眺めていた。
こんなのは見たことないという。
田舎の実態に驚きながらも説明すると、おばちゃんは納得してくれたが受け取らない。
お釣りがないから、お代はいらないとか言い出した。

じゃあちょっと両替してくるから、と言って店を出た。
逃げたと思われたくないので、旅行カバンを店に置いて。
コンビニで小さな買い物をしてお札を崩し、また喫茶店へ戻る。

店には誰もいなかった
ものすごいホコリと蜘蛛の巣に覆われていた。
決して綺麗ではない店だったが、ここまでじゃなかった。
カウンターもレジもホコリまみれだった。

テーブル席には自分のカバンが置いてあった。
そして、座ってたところだけホコリが落ちていた。
慌てて自分のズボンを見ると、お尻が真っ白になっていた。

テーブルにはコーヒーカップが。
少量の飲み残しがあった。
まだ乾ききっていない。

狐に化かされるというのはこういうことだろうか。
わけも分からずカバンを持って外に出た。
ちょうど目の前に、さっきのコンビニの主人がいた。

空き家だった店の跡に入って行ったので、不思議に思って様子を見に来たという。
店はおばちゃんが一人でやっていたが、四年前に亡くなったのだそうだ。
亡くなる前から店はやめていたから、五年は人が入ってないはずだと。

ご主人に店を見せようとドアを押したが、もう開かなかった。
たった今出てきたはずなのに、鍵がかかっていた。

二人で首をひねった。
どうして僕はこの店に入れたんだろう。
確かにコーヒーを飲んだのに。
が、考えても分かるわけもなかった。

子供の頃によく来ていたこと。
覚えているか聞いてみれば良かった。
多分覚えていてくれたんじゃないのかな。
posted by 黒鳥 at 02:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 011〜020 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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