2004年07月16日

たくや

帰宅途中の電車内で、そこだけ異様な空間だった。
わたしは座って寝ていたので最初は気が付かなかった。
ふと目を覚ますと、周囲には人がいなかった。
一人だけ、わたしのすぐ隣に座ってる女性がいた。
携帯をいじっていた。

田舎だけど、人がいない電車ではなかった。
同じ車両にはたくさん人がいた。
ただ、わたしとその女性がいるその一角だけ、誰もいなかった。
そんな状態なのに、なんでこの人はわざわざすぐ隣に座ってるんだろう。

わたしがここに座ったとき、隣はおじさんだった。
他にも人がたくさんいた。
寝て起きたらこの状態。

気のせいかと思ってたが、他の乗客からチラチラ見られている。
人がいないのは、わたしたちを避けているからか?
わたしは避けられる覚えなんてない。
じゃあ隣のこの人か?

とにかく、こんなに空いてるのにすぐ隣に人がいるのは落ち着かない。
一つ隣に移動しよう。
そう思ったときだった。
女性の携帯が鳴った。

女性は携帯をいじってたくせに、鳴る電話に応えない。
思わず女性の顔を見た。
電話が鳴ってるのも気づかないように、力無くぼんやりしてるだけだった。
そして、電話にでた。

小声だったが、隣にいたわたしにははっきり聞こえた。

「もしもし。うん。電車の中。今向かってるところ」
「そうだよ。たくや死んじゃった
「迎えに来れる?うん。警察に行くから」

そして電話を切った。
わたしは彼女の方を向けなかった。

長い時間だったか短かったかわからないが、電車が駅に着いた。
扉が開いて、制服を着た警察官が乗り込んできた。
乗客の一人がこちらを指さしているのが見えた。

警察官に促されて、彼女が立ち上がった。
彼女を挟んでわたしの反対側の座席、わたしの死角になっていたシートにコンビニの袋が置いてあるのが見えた。
袋の中にはまだ赤ん坊のたくやがいた


それからわたしは、電車で座っても決して眠れないようになった。
たくやの顔中のやけどを思い出してしまうから。
posted by 黒鳥 at 01:42| Comment(1) | TrackBack(0) | 001〜010 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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Posted by at 2005年10月11日 14:05
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