2004年07月12日

インカムから聞こえた悲鳴

ぼくが学生の頃入っていたサークルは、年に二回大きな発表会を行います。
県の文化ホールを借りて、一般市民から少しだけど入場料を取るような割と本格的なやつです。
夏と冬に開催するのですが、一年生の夏はみな裏方をやります。
ぼくはミキサー室でピンスポットライトを操作する係でした。

会場入りの前日、先輩から注意事項がありました。
ミキサー室には配電盤もあるが、決して触らないように。とのことです。
同じ大学の演劇サークルが去年同じ会場で感電事故を起こしたのだそうです。
施設側からも厳重に注意されているようです。

リハ当日、ぼくは初めてそのミキサー室に入りました。
本格的な機材がたくさんあって面白かったです。
ぼくらはインカムを使う係だったので、舞台の裏方とインカムを通して話して遊んだりしました。
注意されていた配電盤はすぐに見つかりました。
僕らが作業するピンスポットライトのすぐ後ろでした。
「高圧電流危険」と書いたプレートが貼ってありました。
それに、しっかりと鍵付き扉で封印されていました。

リハは順調に進みました。
ピンスポットライトの係は忙しく、ほとんど立ちっぱなしで舞台の登場人物を追います。
たまに休める時間帯があるので、その時だけは椅子でゆっくり出来ます。

何度目かのリハから、ミキサー室内の照明も落としました。
手元の小さなライトで台本を確認しながらの作業です。
暗くなるとそれだけで集中力が増し、無駄口を叩く人もいませんでした。

そのリハの最中、休憩できるわずかな時間にぼくは椅子に座って舞台を見ていました。
背もたれに体重を預け、行儀悪くのけぞって見てました。

そのとき、ぼくは椅子ごと後ろに倒れ、配電盤に頭を突っ込む寸前で運良くそばにいた仲間の腕をつかんで危ういところを逃れました。
その時のぼくの悲鳴がインカム越しに皆に聞かれ、後でずいぶん笑われました。

が、ぼくはとても笑えませんでした。
あのとき椅子にもたれてたぼくの肩を引っ張られた感触がまだ残っていたからです。
仮に人に話しても、気のせいだったと言われるかも知れません。
だけど、転んだときに悲鳴を上げたのはぼくではないのは絶対に確かです。
インカムから確かに悲鳴が聞こえました。ぼくにも聞こえました。
でもそれはぼくの声じゃありません。
それと、その時に限って配電盤の扉が開いていたこと。
ぼくには偶然に思えませんでした。

そのあとで施設の人に去年の事故について聞いてみました。
感電した人は、実は即死だったそうです。
ぼくと同じように椅子ごと頭から配電盤に倒れたらしく、そのときは扉が壊れていて開けっ放しだったそうです。
事故後に新しい扉が付けられたそうです。

その後、扉が開いていたことを伝えてしっかりと鍵をかけ直してもらい、念のため椅子も交換してもらって、無事に本番を終えることが出来ました。
ぼくが転んで悲鳴を上げた話はその後も何度か笑い話のネタにされました。
そのたびにぼくは一人で背筋の寒い思いをしていました。
posted by 黒鳥 at 01:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 001〜010 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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