2005年03月28日

長老猫との会話

引っ越し先のアパートの隣には、ごく普通の一軒家があった。
何の変哲もないご家庭で、「チョーさん」という一匹の猫を飼っていた。
深夜に帰宅したとき、アパートとの境の塀にちんまりとチョーさんが座っていることがある。
相当高齢らしく、毛皮につやはなく目もどんよりしてる気がする。

そんなチョーさんに声をかけたのは、ほんの気まぐれだった。
「ただいま」
「にゃあ」

返事をした。
ような気がした。

その日は気のせいだと思ってやり過ごしたが、同じやりとりが何度も続いた。
声をかけられると鳴くらしい。それだけだと思っていた。

ある日曜の昼、外出しようと外に出た。
アパートの外階段を下りようとしたら、チョーさんが途中で寝ていた。
「ちょっと通るよー」
返事はなかった。
けど、チョーさんはのそっと動いて脇を空けた。
そこを通らせてもらい、2、3段下りたところで振り返った。
チョーさんもこっちを見ていた。
ばっちり目が合った。

「ご飯食べたの?」
「にゃあ」
いつもの返事だった。
「何食べたの?」
返事はない。
答えにくかったのか。

その日の夜帰宅するときにも、チョーさんは塀の上にいた。
いつもの挨拶をして通り過ぎようとしたとき、チョーさんに呼び止められた。
「ちょっと待って」とか言われた訳じゃない。
ただ「にゃあ」と鳴いただけだが、呼ばれた気がしたのだ。

振り返ると、チョーさんは鼻で足下の何かをこちらへ押しやっていた。
小さな石ころのようだった。
取り上げてみると、茶色いキャットフードらしきものだとわかった。
「これがチョーさんのご飯?」
「にゃあ」
昼間の回答がこれなんだろうか。

不思議な気持ちだったが、チョーさんなら何をしても不思議じゃないような気がした。
「ありがと」
キャットフードを返そうと手を伸ばしたら、その手をチョーさんが押し返した。
引っ掻くような猫パンチの動きじゃなく、ほんとうにゆっくりとこちらの手を遮って押し返してきた。
その人間くさい動作。
『いいからもっとけ』とでも爺さんに言われているようだった。

「ありがと」お礼を言ってみた。
「にゃあ」いつのも返事だった。

それからまもなく、チョーさんは静かに天寿を全うしたそうだ。
もうしばらく生きていたら、化け猫にでもなったのではないだろうか。

今でもチョーさんからもらったキャットフードは棚に飾ってある。
もうちょっとチョーさんと話してみたかったと思う。
posted by 黒鳥 at 01:41| Comment(1) | TrackBack(0) | 031〜040 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この話好きだ!
Posted by ゆ at 2014年06月27日 07:18
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