幼稚園児の頃、高熱を出して入院したことがある。
しかもその病院が火事になって、火傷を負った。
今でも右手の平にはその火傷の跡が残っている。
同じ病室の人はみんな先に逃げてしまって、自分はどうしたらいいか分からず呆然としていた。
廊下に火の灯りが見えて、もう死ぬんだと思ってしまった。
気が付いたら、消防士さんに抱きかかえられていた。
「大丈夫だから」
そんな風に言われた気がする。
なんでそんなことをしたのか、全然覚えてない。
火がくすぶってる階段を抱かれたまま通るとき、手を伸ばして階段の手すりを掴んだ。
鉄の手すりは火であぶられていて、あっという間に手が焼けた。
「何やってるんだ!」
消防士さんに怒鳴られた。
怒られたけど、その日から自分にとって消防士はあこがれの存在になった。
大人になったら自分も消防士になりたいと思った。
助けてくれた消防士さんの名前は分からなかったけど、近くの消防署にお礼の手紙を書いて送った。
そして、大人になって、本物の消防士になれた。
消防士になって3年目のこと。
あの病院がまた火事になった。
現場に着いたとき、自分も人命検索にあたった。
病室に取り残された人がいないか探して回るうち、男の子を見つけた。
どこも怪我はなさそうだった。
「大丈夫だから。すぐ外へ出られるから」
抱きかかえて、避難を始めた。
途中で火をかき分けながら階段を下りるとき、急に何か思い出した。
振り返ると、子供が手すりに手を伸ばしていた。
「何やってるんだ!」
慌てて子供を引きはがした。
外へ出たところで、子供が親を見つけた。
「お母さん!」叫びながら走っていった。
自分もまた、燃えている建物へ戻った。
それから何日か経ったあと、出張所へ手紙が届いた。
あの病院火災で救助された子供からだという。
妙に黄ばんだ封筒だった。
「○○出張所の消防士さんへ」と書かれたその手紙には、
「おおきくなったらしょうぼうしさんになります ひまわりぐみ ささきしんや」と書いてあった。
自分と同じ名前だった。
ふと気が付くと、手の平の火傷の跡は消えていた。
2005年01月07日
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