2005年01月07日

しょうぼうしさんになります

幼稚園児の頃、高熱を出して入院したことがある。
しかもその病院が火事になって、火傷を負った。
今でも右手の平にはその火傷の跡が残っている。

同じ病室の人はみんな先に逃げてしまって、自分はどうしたらいいか分からず呆然としていた。
廊下に火の灯りが見えて、もう死ぬんだと思ってしまった。
気が付いたら、消防士さんに抱きかかえられていた。
「大丈夫だから」
そんな風に言われた気がする。

なんでそんなことをしたのか、全然覚えてない。
火がくすぶってる階段を抱かれたまま通るとき、手を伸ばして階段の手すりを掴んだ。
鉄の手すりは火であぶられていて、あっという間に手が焼けた。
「何やってるんだ!」
消防士さんに怒鳴られた。

怒られたけど、その日から自分にとって消防士はあこがれの存在になった。
大人になったら自分も消防士になりたいと思った。
助けてくれた消防士さんの名前は分からなかったけど、近くの消防署にお礼の手紙を書いて送った。


そして、大人になって、本物の消防士になれた。

消防士になって3年目のこと。
あの病院がまた火事になった。

現場に着いたとき、自分も人命検索にあたった。
病室に取り残された人がいないか探して回るうち、男の子を見つけた。
どこも怪我はなさそうだった。
「大丈夫だから。すぐ外へ出られるから」
抱きかかえて、避難を始めた。

途中で火をかき分けながら階段を下りるとき、急に何か思い出した。
振り返ると、子供が手すりに手を伸ばしていた。
「何やってるんだ!」
慌てて子供を引きはがした。

外へ出たところで、子供が親を見つけた。
「お母さん!」叫びながら走っていった。
自分もまた、燃えている建物へ戻った。


それから何日か経ったあと、出張所へ手紙が届いた。
あの病院火災で救助された子供からだという。
妙に黄ばんだ封筒だった。
「○○出張所の消防士さんへ」と書かれたその手紙には、
おおきくなったらしょうぼうしさんになります ひまわりぐみ ささきしんや」と書いてあった。
自分と同じ名前だった。

ふと気が付くと、手の平の火傷の跡は消えていた。
posted by 黒鳥 at 05:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 031〜040 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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