2005年01月05日

クローゼットのお札

引っ越し先は、新築のアパートだった。
入居可能日は平日だったが、仕事が終わった夜から早速荷物を運び込んだ。
暗い中で室内灯を取り付け、灯りをつけた。
汚れ一つ無い壁や床で嬉しかった。
持ってきた荷物をどんどん運び込み、クローゼットにも収納しようとした。

収納ボックスを置いたときに側面の壁が目に入った。
紙が貼ってある。
30cmほどの、細長い短冊のような紙。
不思議な模様が描かれている。
どう見てもお札としか思えなかった。

旅行先の安ホテルとか、いわく付きの格安物件じゃあるまいし。
むしろ家賃の高い新築物件で、こんなお札が必要な覚えはない。
下見に来たときは、こんなお札は貼ってなかった。

もしかして、工事の人のゲン担ぎで貼ってあるだけで、どの部屋にも必ず貼ってあるのかも知れない。
そう思い直して、気にしないことにした。
だけどはがすのも気が引けるので、収納ボックスを積んで見えないようにした。

引っ越し後に新居で寝る最初の夜は、お札のことを思い出して少し緊張したが、何事もなかった。
その後もずっと何事もなく、すっかりお札のことは忘れていた。
とても具合のいい部屋で、トイレもお風呂も何もかも満足していた。
ただ、どこから侵入してくるのか、夜に帰宅すると部屋の床に砂がこぼれていることがあった。

ある日、仕事でトラブルがあって徹夜で作業する羽目になった。
翌朝に引き継ぎをして、帰らせてもらった。
家に着いたのは昼の11時くらいで、それからすぐに寝ることした。

そう言えば昼間の新居は初めてだった。
日当たりがいいのも嬉しいことだが、これから寝るというときにはちょっと煩わしい。

カーテン越しの暖かい日差しの中、横になっていると眠気のせいか頭がぐらぐら回る気がした。
そうして半分寝ているような気分の中で、人の気配を感じた。

夢かも知れないが、気配は次第にはっきりしてきた。
ぺたぺたとフローリングを裸足で歩く音が聞こえた。
床に直接布団を敷いて寝てるので、耳元ではっきり聞こえた。

足音は布団の周りをぐるぐる回り始め、だんだん早足になってきた。
それも、いつの間にか二人分の足音になっていた。

布団を真ん中にして、追いかけっこをしてるようだった。
たまに布団を飛び越えてるような大きな音も聞こえた。
振動まで伝わってきた。
布団の端を踏んづける感触もあった。

不思議と怖くはなかった。
だけど、目を開けて確認はしなかった。
夢うつつで心地よかったせいだ。

そのうち、ふと足音が止まった。
これ、邪魔だよね
はっきり声が聞こえた。
子供の声だ。
捨てちゃおうか
別の場所からも声が聞こえた。

そして、布団が足のほうから持ち上げられる感触が伝わってきた。
途端にものすごい恐怖に襲われ、慌てて起きあがった。
あたりには誰もいなかった。
だけど、足下の布団にはくっきりと2箇所のくぼみがあった。
誰かがそこを掴んだように。

それからお札の存在を思い出し、クローゼットを開けた。
隠してあった収納ボックスをどけて、お札が見えるようにした。

その日以来、いつもクローゼットの扉は開けておくようにした。
それからは不思議な物音を聞いたことはない。
床に砂が落ちていることもなくなった。

お札を貼ったのは、やはり工事の人かも知れない。
昼に工事してるとき、何か見たのかも知れない。
今となっては聞くこともできない。

お札を剥がしたら、また誰かが部屋にやってくるのだろうか。
試してみたい気もする。
だけど、もしもあのときあのまま寝ていたらどうなっていたのか。
そこまで試す気にはなれない。
posted by 黒鳥 at 20:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 031〜040 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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