2004年12月11日

死者が更新するサイト

そこは、なんの変哲もない日記サイトだった。
ただ、インフルエンザらしき高熱で苦しいと書いてあった。
一人暮らしで苦しんだ経験があるので、ぼくも辛さはよく分かる。
だけどもちろん何もしてやれない。

数日後にふと思い出してそこを訪れてみた。
どうやら死んだみたいだ
なんて書いてある。

葬式も火葬も済んで、親が泣いてるのをぼんやりみてたとか。
部屋は今まで通り残されているとか。

そういうサイトだったのか?
と思って過去ログを読んでみたが、それまでは普通の日常を並べてるだけだった。
今時珍しいくらい家族で仲がいい、幸せそうな若者だった。
この日から突然こんな事を言いだしている。

本人も困惑しているらしい。
自分の置かれている状況がよく分からずに。

どうやってサイトを更新しているのか、などの詳細は書かれていなかった。
だから、これも当然冗談なんだろう。と思っていた。
もともと確かめる術はない。
誰が管理人なのか、知らないのだから。

サイトの更新は続いていた。
彼の存在には周りの人間は気づいていない。
だから、普段は見えなかった本音が聞けたと。
いつもは仲の悪かった妹が、自分の死で泣いてふさぎ込んでることに心を痛めていた。

妹だけではなかった。
両親とも、彼の死後に元気を取り戻すこともなく、会話も無く家中が暗く落ち込んでいるらしい。
妹は学校をさぼるようになり、親もとがめない。
両親は沈痛な顔で会話も少なく過ごしていると。

見ていて楽しい内容ではないが、この後どうなるのか気になって、サイトをちょくちょく覗く日が続いた。
そして2週間ほどたったある夜。
突然切迫した内容が書かれていた。

両親と妹が自殺しようとしている。
ガムテープや練炭を購入して。
自宅のガレージでやろうとしてるから、誰か止めて欲しいと。
そして、自宅の住所と電話番号が書いてあった。

その内容が書かれた時刻は、ほんの10分前だった。
本当なのかこれは。
とても迷ったが、試しに自宅の電話番号にかけてみた。
が、つながらない。
話し中のツーツー音が聞こえていた。

さらにずいぶん迷ったが、110番にかけることにした。
もしもこれがいたずらでも、こちらが怒られることはないだろう。

110番はすぐに出た。
ネットで見た内容を伝えた。
ガレージで自殺しようとしている家族がいると。
それだけで、電話の相手は了解してくれた。
「●●県××市の件ですね?」
同様の電話が多数寄せられているらしかった。

サイトを開いてみると、警察が来て家族をすぐ発見して保護してくれたと書いてあった。
信じて動いてくれた人たち、ありがとう。
そう書いてあった。
その後、サイトが更新されることはなかった。

2ヶ月くらい経った頃、ある出版社から電話が来た。
あのとき110番した人ですよね?と。
当時サイトにアクセスして110番した人に話を聞いて回っているらしい。
そういう情報が伝わってしまうものなんだなと妙に感心した。

電話でいろいろ質問に答えた後、こちらから逆に聞いてみた。
「その後、あの家族はどうなりましたか?」

彼の死後も更新されていたあのサイトを、事件後に家族は初めて見たらしい。
いろいろ思うことがあったんだろう。
今ではしっかり立ち直って生活を送っているとのことだった。
posted by 黒鳥 at 01:59| Comment(1) | TrackBack(1) | 021〜030 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
後味悪くない系世にも奇妙な感じ。好きだな〜
Posted by なな氏 at 2014年09月08日 17:24
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不思議な物語
Excerpt: 灯りが消えぬように。 「(12/11)死者が更新するサイト」が新着記事に載っていたときにみつけました。 その日は夜中だったのに、全記事を読みきってしまいました。 本当に不思議なお話がいっぱいです。と..
Weblog: ♀・19歳のbookmark
Tracked: 2004-12-29 17:58
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